『女はみんな生きている』は、
なかなかおもしろい映画でした。
(アラブ女性の描き方に問題がある、
という指摘もあるのですが。)
そしてまさにその「アラブ女性」役を演じていたのが、
ラシダ・ブラクニです。
『女は―』では、娼婦の役でした。
けれど、今回見た
Cheba Louisa
では、
保険会社に勤めるキャリア・ウーマンです。
もちろん、見てわかるアラブ系ですから、
「よく同化した」人という役どころです。
https://www.youtube.com/watch?v=KCv5ssHLbT8&fr=yfp-t-402-s(全編版)
https://www.youtube.com/watch?v=hbSqbxLnmuY(予告編)
この映画、よくできています。
舞台は、パリ郊外、ル・プレ=サン=ジェルヴェにある、
アラブ系住民が多い「シテ」です。
(ただこの映画のシテは、
まったく危ない感じがしません。)
ヒロインのジェミラは、アルジェリア系フランス人。
30歳で独身。いわゆる「いい仕事」を得ています。
彼女には、同じ会社で働く恋人フレッドがいますが、
実は、地元にフィアンセもいます。
ただしこちらは、親同士が決めた結婚で、
彼女は相手の男に対して、
「いい友達」以上の気持ちは持っていません。
そしてこの結婚をごり押しする母親ゾラ(ビウーナ)は、
典型的な「アラブの母親」ですが、
実はゾラにはつらい記憶があります。
有名歌手で、自由に生きた母親ルイーザに、
自分は愛されていなかった、という思いです。
だからこそゾラは、「自由に生きる」ことへの拒絶感が強いのです。
さて物語は、そんなジェミラが、
なんとか一人暮らしを許してもらったところから始まります。
新しいアパルトマンでなら、恋人とずっと一緒にいられそうです。
そして彼女がそこで出会うのが、
お向かいに住む白人のシングル・マザー、エマです。
大好きだったギタリストの夫
(写真ではアラブ系に見えます)
が事故で死んでから、
彼女はスーパーのレジ係をして、
二人の小学生を育てています。
彼女の誇りが、補助金の申請をすることを許しません。
最初は合わなかったジェミラとエマは、
いくつかの事件を通して、お互いを励まし合う関係になってゆきます……。
この映画で、一番よかったシークエンス。
それはジェミラが、
祖母であるルイーザの古いフィルムを見るところです。
(全編版では、20分あたりから。)
彼女がやがて、スクリーンに近づくと、
彼女の肉体に、ルイーザが宿るのです。
それは、自由を希求する魂であると同時に、
アルジェリアの魂でもあります。
ジェミラは、この、
一見相反するようにも見える要求を、
二つながら追うことになるのです。
<以下ネタバレ>
ジェミラとフレッドの関係について言えば、
まず2人は、別々の世界に住んでいました。
そして前者は、後者の世界に惹かれていましたが、
その逆は、それほど積極的ではありませんでした。
(とはいえフレッドは、表面だけなら改宗してもいいし、
割礼を受けてもいい、とまで言ってくれます。)
ただ最終的には、ジェミラは自分のルーツに大きな価値を見出し、
フレッドは、そういう彼女についてゆけなくなり、
彼女のもとを去ってしまいます。
ということは……
この映画の、一見美しいエンディングは、
イスラーム世界の文化に背を向けた「フランス」と、
自らの内に閉じこもる「アラブ」にも見えなくはありません。
ただそんな状況でも、少なくともエマは、
ジェミラの傍らにいて、彼女と通じ合っています。
(けれどもエマは、ジェミラ以外のアラブ人たちからは「娼婦」扱いされ、
白人社会からは、「落伍者」扱いされています。
決して「フランス」の擬人化ではないでしょう。)
見たばかりで考えがまとまりませんが、
とにかく、いい意味で問題作だと思います。
Cheba はアラビア語で、「若い娘」だそうです。