2020年8月10日月曜日

『シノニムズ』

 去年のフランス映画祭で上映され、

かなり話題になった映画、

『シノニムズ』

を(フランス版DVDで)見てみました。

https://www.youtube.com/watch?v=9u1HtImIb6s

主人公ヨアヴは(監督同様)イスラエル人。

ただ彼は、国家としてのイスラエルに嫌気が差し、

(その直接のきっかけは兵役のようなんですが)

フランス人になるため、パリにやってきました。

そしてこの映画は、彼のその努力と挫折の過程を描いています。

広く言えば、フランスに適応しようとする移民の物語です。


中心となるモチーフの1つが、言語。

主人公は、ヘブライ語を捨て、フランス語だけを話そうとします。

(実はこれは、リトアニアからイスラエルに移民した祖父が、

イディッシュ語を捨ててヘブライ語だけを話したこととパラレルになっています。)

で、

パリの街を歩きながら、

彼は辞書的な「シノニム」(類義語)をつぶやき続けるのです。

こうした言語の問題は、目新しいことではないけれど、

映画の中で正面から描かれるのは珍しいかもしれません。


また彼は、ヌードモデルのバイトをします。

依頼主は、ヨーロッパ的な退廃を表してもいるのでしょうが、

これはそんなに深味がないように思いました。

それから映画冒頭、

無一物でパリに着き、持ち物を全部盗まれた折り、

彼を助けてくれる若いお金持ちのフランス人カップルがいるのですが、

この二人は、すごく現実感が薄い。

むだに(と言うと言い過ぎかもですが)「文学的」だし。

主人公は、カップルの女性と寝ることになるのですが、

その表現は、

ヌードモデルのシークエンスとバランスがずれているようにも感じました。


というわけで、

もちろん最後まで見ていられるし、

フランス語講座の場面など、

おもしろい箇所もあるのですが、

いざこうして書いてみると、

自分がそんなに気に入ってなかったことが分かりました。

もうずいぶん前の、「実験映画」風のカメラワークも、

ややあざとい感じ。

フランスの描き方も、

イスラエルの描き方も、

両方とも甘いんじゃないかと思いました。