スーパーの駐車場を出たところで
スマホを手に取り
インターネット・ラジオを開く
それはFrance Culture
男女が話している何の話だ?
クルマはすぐに交差点に差しかかり
エンジンはオートストップする その時
しわがれた男の声が
唐突に耳を打ち始めた
これは……
シャルルよ、きみの詩だ
タイトルは思い浮かばない
けれどもしわがれ声と同時に
わたしの中からもフランス語が聞こえる
もう何度読んだか知れない詩だきみの詩だシャルルよ
かつてきみの詩から
パリを
群衆を
聖なる売淫を
味わったのだ20世紀後半のワカモノとして
パリだけで20回引っ越したきみの詩は
東京で這いずり回っていたガクセイの喉に
杭のように悔いのように打ち込まれた
だから聞こえてくるのだ今でも
還暦過ぎの胸の底からも
シャルルの腐臭する言葉が逆巻く髪のように立ち昇ってくる
新型ウイルスが灼熱に晒される8月の真昼の東京の交差点で
ブンガク
とは何かを考える羽目になるとは
この調子の高い
けれど内臓を食いちぎるような言葉は
ブンガクなのか?
有料になったレジ袋に反響する言葉
このレジ袋の背後に社会があり世界がありそこにブンガクはあるのかないのか
マクロンの支持率が下がり
プレイヤッドの売り上げも落ちる
クジラはプラスチックを飲み込み
ブロイラーは歩けない太り過ぎて
これはブンガクなのかブンガクはどこにあるのかここに
この右折待ちの炎熱の車内にもコトバは響くというのに
来年、もしきみが生きていたらちょうど200歳だ
影のように老いぼれたきみと シャルルよ
そのコーナーのファミレスで
パフェなんぞ一緒につついてみたい
きみの目は
いつでも少し怖いのだけれど