2020年8月23日日曜日

『この自由な世界で』

 エンタメを2本見たのですが、

これはまあ言ってみれば、その前に見た

『家族を想うとき』

の余韻が強くて、

「まともな」映画はちょっと見にくかったからでもあります。

で、やっと、次を見てみようという気持ちになり、

でもせっかくだから、ケン・ローチ監督のまだ見てない作品を、

ということで選んだのが、

『この自由な世界で』(2007)

です。

https://www.youtube.com/watch?v=ectf5B5ice0

33歳のシングルマザー、アンジー。

人材斡旋会社でがんばって働いていたものの、

セクハラをとがめたために解雇されてしまいます。

で、

彼女は友人のローズと二人で、

今度は自分たちでそうした会社を立ち上げることにします。

まあ、勝負に出たわけです。

最初は順調に見えたんですが、

その後、予想しなかったさまざまな問題が生まれ……

という物語です。


この映画の中で登場する人材会社は、

主に東欧の仕事がない人たちをイギリスに連れてきて、

最低賃金の仕事を紹介することを主な業務としています。

看護婦も、教員も関係ありません。

用意されているのは「底辺」の賃労働だけです。


この映画は、とてもいい映画でした。

しかも、いい意味で屈折がある。

アンジーはいい人間だし、

根はまじめでやさしいし、

息子を愛しているし、

人生を楽しみたいと思っている。

でもそんなアンジーが、

東欧からの「人材斡旋」という、

きわめてネオ・リベ的な仕事に打ち込むうち、

(それは自己実現のため、息子との生活のためです)

いつか、

自分を搾取していた構造の一部となり、

その論理を内面化して行ってしまうのです。

それは、見ていてとても苦い味わいで、

アンジーを一方的に批判することはとてもできないけれど、

でもやっぱり擁護することもできないという……

こういう主人公は珍しいと思います。


アンジーの父親、

ちょっと古くて、ちょっと頑固で、やさしい彼は、

娘の斡旋業のあり方を真っ向から否定します。

ここには世代の違いもありますが、

やはり、価値観の相違が際立っている。

そこかケン・ローチ監督のうまさなんだと感じます。


言うまでもなく有名監督ですが、

やっぱりケン・ローチはいいです。