「まいにちフランス語」は、今週で、3分の2を終えました。みなさん、いかがですか? まだまだ大丈夫ですか? どうぞ、練習問題こなしてくださいね。分かっているつもりでも、実際やってみると、「発見」があるものです。楽しんでください!(ついでに宣伝しちゃいましょう。練習問題の「追加」をご希望の方は、その名もズバリ、『フラ語練習、楽しいだけじゃだめかしら?』もどうぞ。全体としてはヤサシイけれど、これは初級の範囲をすべてカバーしているので、全体像を眺めるのには都合がいいです。)
問題集と言えば…… わたしの世代だと、やはり1番記憶に残っているのは、「原仙」の「英文法標準問題精講」でしょうか? 高校生のころ、あの問題集は3回やって、ほぼ丸暗記しました。(もう忘れましたけど!)なんだか、クイズを解いているみたいで好きでした。
と言うと、「変わってる」と言われることがあります、文法が面白いなんて! と。でも、文法、本当は面白いです。クイズみたいで。(ってもう言いました?)
そういえば中学生の頃は、日本語の文法が好きでした。中1のとき、本屋で「国文法なんとかかんとか」という本を買って、これは格助詞か係助詞か、なんてコラムを喜んで読んでました。(う~ん、これは書いていて、ちょっと「変わってる」感じがしますねえ。でも、勉強好き、というのでもなかったんですけど。)
これは、大学の授業で聞いて、いまだに記憶に残っている話なんですが…… 子供が言葉を覚える過程ってどんな風か、ということについての、試論の1つです。
まず、なにも描かれていない画用紙を想像してみてください。そう、真っ白けです。で、赤ちゃんが最初に、「ア!」と言ったとします。つまり、画用紙の真ん中に、「ア!」と大書きしたということになります。じゃあこの「ア!」は、なにを指しているのか? それは、「世界全体」だ、というのです。そう、画用紙は、「世界」なんです。
次に赤ちゃんは、「ママ」という言葉を覚えたとしましょう。画用紙は、「ア」と「ママ」に分割されます。「世界」は、「ママ」と「それ以外(=ア)」でできています。
そして赤ちゃんは、「パパ」を覚えたとします。もちろんそれは、その赤ちゃんのパパのことかもしれないし、もしかしたら、「男の人」はみんな「パパ」なのかもしれません。でもとにかく、画用紙に「ア」と「ママ」と「パパ」が並ぶことにはなるでしょう……
この話のポイントは、赤ちゃんが言葉を覚える順序ではありません。大事なのは、赤ちゃんが言葉を覚えるということは、最初はただ「真っ白け」だった世界を、どんどん分割してゆくことなんだ、という点にあります。「文節化」、と呼んでもいいのかもしれません。
で、たとえば、フランス語のpapillon。これは日本語にすると、「蝶」にも「蛾」にもなります。(「蛾」の場合は、papillon de nuit 「夜のパピヨン」とも言いますが。)これ、どうですか? 日本語を使う人たちにとっては、「蝶」と「蛾」が同じ単語だというのは…… ちょっとイワ感がありますね? どうしてこんなことになるんでしょう?
よく分かりません! 分かりませんが、1つ分かることがあります。それは、「言葉」によって、「分割」の仕方は違う場合がある、ということです。
もちろん、フランス語では分かれているけど、日本語ではイッショクタになっちゃう単語(「帽子」とか)もあります。日本語ほうが細かい、という話ではないんです。
ということは…… ふだん日本語を使って暮らしているわたしたちが「世界」を見るときは、「日本語」の分割の仕方にしたがって見ている、ということになります。「蝶」と「蛾」は、ちがう単語ですものね?
ということは…… わたしたちは、喜んだり、悲しんだりするときも、「日本語」の外側にいるわけではないので、わたしたちがどんなに嬉しいと思っているときでも、それはまあ、「日本語」、あるいは「日本語文法」の支配の下で、ということなんでしょう。(なんだか、ザンネンな感じですか?)
ここで思い出されるのは、田村隆一のあの有名な1行;
言葉なんかおぼえるんじゃなかった
です。言葉を知らなかったころの、「真っ白な」喜び……