今日の「まいにちフランス語」の途中で、ボードレールのこんな1行が登場しました;
Dis-moi ton coeur parfois s'envole-t-il, Agathe(...)
ここで使われている s'envoler は、以前このブログでも、Le temps s'envole.(時は飛び立つ→飛び去る)のときに初出演を果たした動詞ですね。心が、地面を蹴って空に向かう鳥のように、飛び立つことはあるのかい、と聞いているわけです。とても「映像的」な1行です。
これは実は、「悲しくてさまよいの」という詩の冒頭なんです;
Moesta et errabunda
Dis-moi ton coeur parfois s'envole-t-il, Agathe,
Loin du noir océan de l'immonde cité
Vers un autre océan où la splendeur éclate,
Bleu, clair, profond, ainsi que la virginité?
Dis-moi, ton coeur parfois s'envole-t-il, Agathe?
語れ、きみの心は時に飛び立つか、アガートよ、
穢(けが)らわしい都会の真黒な海原を遠く離れ、
処女(おとめ)の心のように青く、明るく、深く、
燦然と光の輝く、もうひとつの海原へと?
語れ、きみの心は時に、飛び立つか、アガートよ? (阿部良夫訳)
この詩の1行1行は、どれも12音でできています。日本人にとっては、七五調が、もうほとんど集団的無意識にまで入り込んでいると思えるリズムですが、フランス人の場合は、おそらくこの12音のリズムがそれにあたるのでしょう。(1行の中で、6-6の場合も、4-8などの場合もあります。)よかったら、ちょっと数えてみてください。みんな12音です。
ついでに言うと、各行の最後、音が2パターンなのにお気づきでしょうか?(1, 3, 5は「アットゥ」、2 ,4は「イテ」。)いわゆる、「韻を踏む」ってやつですね。
たとえば、「気楽にな!」と言うとき;
Relaxe, Max. (ルラックス マックス)
と、「クス」で韻を踏んだりもします。もちろん、相手は「マックス」君じゃなくてもいいんです。これは英語でも、「じゃ、あとで」と言うとき;
See you later, alligator.
なんて言ったりもするようですね。もちろん、相手がアリゲーターじゃなくてもいいんです!
わたしの好きな「シリーズ物小説」の1つに、ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズがあるのですが、この中の登場人物の1人は、もうほとんどいつでも、こういう韻を踏みながら話しています。ちょっとおもしろいです。
でもそれを言うなら、エミネムを筆頭にラッパーたちはみんな、韻は踏まずにはいませんね。外国語の場合、その韻の踏み方が、カッコイイのかダサイのか、なかなかそこまでは分からないんですけど。ただ、これは英語の先生から聞いたんですが、たとえばRolling Stone みたいな雑誌には、ラッパーの韻の踏み方についての詳論が載ったりするようです。う~ん。日本にもそんな雑誌があるんでしょうか……?
というわけで、今日は韻を踏むお話でしたね、ナタネ。(ナタネって誰?)