2015年4月17日金曜日

Origine contrôlée

このところ、
おもしろい映画に当たり続けていて、
いい感じなんですが、
今回見た

Origine contrôlée

もまた、とても興味深い作品でした。

http://www.dailymotion.com/video/x84o97_origine-controlee-ba-fr_shortfilms

この予告編だと、
完全にB級の印象で、
実際、ドタバタ・コメディ的なところもあるんですが、
それでもテーマは「フランス人」であり、
単なるおふざけとはまったく違うレベルに達しています。
一種のロード・ムーヴィーでもあります。
監督は、Krim(1995)のAhmed Bouchaala と、
Zakia Bouchaala の名前がクレジットされています。
(後者は、Zakia Tahri の別名のようです。
彼女について検索すると、
Screens and Veils で言及されているようなので、
あとで確認します。)

まずタイトルですが、
これは例の<AOC>(原産地統制銘柄)というときの、
「統制された原産地」ということですが、
むろんこれは、「フランス国籍」に関わる作品なのでした。
しかもポスターには、
「フランスでは、ラベルにこだわってます!」
とあり、明らかに<AOC>を踏まえた、
フランスへの皮肉が感じられます。

主な登場人物は3人。
まずは「フランス人」のパトリック。
彼は求職中でしたが、
やっと仕事にありついたところです。
そして娼婦であるソニア(ロニ・エルカベッツ)。
アルジェリア系で、ムスリマである彼女は、
実は「彼」で、
ジュネーヴで性転換手術をすることを望んでいます。
そしてもう一人が、
やはりアルジェリア系の小悪党であるユセフ。
ただし彼は、2(3?)世であり、
アラビア語もできなければ、
コーランの祈りの言葉さえ知りません。

物語は、
パトリックが女装し、
恋人マリの会社の仮装パーティーに出かけるあたりから、
動き始めます。
その会場でもめ事を起こし、
ひとり怒ってバーに入った彼は、
そこで、トイレに行っている間に、
本物(?)の女装した男娼に、
バッグを交換されてしまいます。
そこには、身分証明書が入っていました。
で、
直後に警察の手入れがあり、
あわれパトリックは、
アルジェリア系の不法滞在の女装した男娼、
ということにされ、そこから彼の苦難が始まります。
彼は警察の留置所に放り込まれ、
そこで、ソニアとユセフに出合うのです。
このままでは、三人はアルジェリアに強制送還されてしまいます……。

官憲によって、移民系だと決めつけられたパトリックは、
どうもがいても、
はいはい、みんなそんなこと言うのよね、
という感じで、まったく聞いてもらえません。
そこで、「フランス人」であることの証明とは何か、
という問題が、
にわかに浮上してくるのです。
英語のタイトルである Made in France は、
そういう意味で、
なかなかうまい訳だと思いました。

印象に残ったセリフを、
備忘録的に書いておくことにします。

ユセフ(20m)
「誰がフランス人かなんて、どうすればわかるんだよ?
誰だってフランス人になれるだろ。
おれは、フランス人に見えるアラブをたくさん知ってるし、
アラブに見えるフランス人ならもっとたくさん知ってる。
ほら、背が高くて、もう死んだあの歌手とか……」

それはイヴ・モンタンのことでした。
まあ、彼はイタリア系ですが。

ユセフがパトリックに。(24m)
「おれがあんたみたいなフランス人だったら、
今頃はアメリカ人になって、
マイアミで暮らしてるさ」

そしてもちろん、パトリックが間違えられるのは、
単に「移民」であることにとどまらず、
同性愛者であることでもあります。
揺らぐのは、国籍だけではありません。

逃亡中の三人が逃げ込んだカフェで、ある客が。
(パトリックが、女装した男娼を殺したとされている件について。)
「それはいいことをしたさ。
あんなやつら、殺していいんだ、
ホモとか、ユダヤ人とかもな」
「じゃあアラブは?」とユセフ。
「アラブは別だよ。
アラブの姉ちゃんときたら、めちゃめちゃホットだからな!」

まあ、政治的には完全にアウトな発言ですが、
これを、田舎のカフェに集う労働者に言わせているところに、
自身もアラブ系である監督たちの意図があるんでしょう。

また(英語版の)wikiによれば、
これは、ロニ・エルカベッツが、
初めてフランス語の映画に出たものだそうです。
たしかに、いつもはヘブライ語ですが、
どこかでフランス語も聞いた気がしますから、
それはこれ(2000)よりあとの作品だったのかもしれません。

有名な作品ではまったくないですが、
いろいろ考えるポイントのある映画でした。