ずっと気になっていた1本、
『赤い手のグッピー』(1943)
https://www.youtube.com/watch?v=qoND_z6R4yU
です。
以前挙げたジャック・ベッケルの作品例をもう一度。
1943 赤い手のグッピー
終戦
1947 幸福の設計
1949 7月のランデヴー
1951 エドワールとカロリーヌ
1952 肉体の冠
1953 エストラバード街
1954 現金に手を出すな
1958 モンパルナスの灯
やはりこのジャック・ベッケル監督は、
こうしたことを考えたいたんだなと、
あらためて思わされました。
その「あからさまさ加減」は、
登場人物たちの名前(あだ名)にも感じられます。
彼らはみんな、グッピー一族です。
(表記としては、「グーピ」のほうがよかったと思いますが。)
これはgoupil(人を騙すキツネ~反権力)から、
語末の l を取ったもの。
アンペルール(皇帝):106歳:唯一、宝の隠し場所を知っている。
ラ・ロワ(法律):アンペルールの息子~始終、銃の手入れをしている。
ラ・ロワの子どもたち4人(ラ・ベル以外は50歳代)
ラ・ベル(美女~かつての「マリアンヌ」):19歳の時、赤い手との結婚を反対され自殺。
ティザンヌ(煎じ薬~病気):独身のガミガミ屋。殺される。
レ・スー(ケチ~拝金主義)
ディクトン(ことわざ~固定した古い知識)
カンカン(悪口~不満):レ・スーの後妻
ムッシュ/クラヴァット(ネクタイ~都会的消費生活):レ・スーと前妻の子。若い。
ミュゲ(すずらん~メーデーの花・労働者):ディクトンの娘。若い。
マン・ルージュ(赤い手~労働者):瀕死の皇帝から、宝の在りかを教えられる。
トンカン(ハノイ~植民地)
「宝」とは、「皇帝」の父が見つけ、
彼に託したもの。
(それは、フランス革命の理念なのでしょう。
映画内では、ゴールドのこと。)
そして「法律」は、19世紀を通じて、
革命精神(=共和制)を敗北に導きます。
(7月王政、第二帝政、パリ・コミューン……)
だから「皇帝」は、大事な「宝」を、
息子ではなく「赤い手」に託します。
「赤い手」もまた、かつて「法律」により、
「美女」(=フランス)との結婚を禁じられた過去があります。
(→労働者は、フランスを動かす主体になれない。ここ大事。)
で、現在のフランスは、
病気でケチで思考停止。
そして未来のフランス(「すずらん」)は、
だれの手によって運営されるかと言えば、
それは「ネクタイ」。
デパートのネクタイ売り場で働く青年です。
(植民地主義は、彼女を幸福にしない。)
人民が死に絶えたフランスで、
マリアンヌ(フランス)を支えるのは、
こうした小市民なのだ……
たしかに、そんな風に見えます。
なんと、一族の物語の中に、
革命以来のフランスの歴史が組み込まれています。
ジャック・ベッケル監督、おそるべし!