2021年5月15日土曜日

『ボディガード ー守るべきものー』


先日見終わった『コラテラル』がおもしろかったので、
自然と、ロンドンが舞台の作品に手が伸び、
見てみたのがこれ、

『ボディガード ー守るべきものー』(2018)


やはりBBCで放映された、6話から成るミニ・シリーズです。
結論から言うと、
かなりおもしろかったです。
どんどん見たくて、実際見てしまいました。

ロンドン警視庁の巡査部長であるDavid は、
アフガニスタンの退役軍人でもあり、
その後遺症としてPTSDに苦しんでいます。
妻もまた、心を開かない彼とうまくやっていけず、
今は、幼い子ども2人と暮らしています。
David はこどもたちを愛していますが、
育て方がややマッチョな部分もあります。
それは自分自身に対しても。

このDavid が、ある時、子ども2人と列車に乗っていた折り、
爆弾テロを計画するテロリストと乗り合わせてしまいます。
が、David の行動により、テロは回避。
彼はこの功績で、
内務大臣の警護を担当することになります。
けれども彼女は今、
治安に関する右寄りの法案を通過させようとしていて、
それゆえテロ攻撃の対象者なのです……
とここまでが、いわばプロローグ。
本当の物語は、ここから始まります。

エンタメとして高い緊張感を維持していていること、
それが第一の魅力なんですが、
でもこれは他の作品でも起こりうることです。
じゃあこの作品の特徴は何かと言えば、

<以下、ネタバレ含みます>

実は、ある激しい襲撃事件のあと、
離婚して今は一人の内務大臣は、
とてもきめ細かく警護するDavid にある癒しを求めます。
二人は、男女の関係になってゆきます。
でも……
右寄りの法案を推し進める大臣は、
あるニュースのインタヴューに答えて、

タリバンやIS が平和をもたらす確証なんてまったくない、
たから、
That doesn't require apologizing for the past.

と言い放ちました。
一方David はと言えば、
アフガンで死地をくぐり、
「政治家」たちはロンドンで号令をかけるだけで、
おれたちは使い捨てにされている、
と深く感じているのです。
つまり2人の政治的立場は、
水と油なのです。
しかもそのことを、
2人はお互い知っているのです。
にもかかわらず、2人は、
いわゆる政治的信条よりももっと深いところで呼応し合い、
信頼し合い、
関係を持つことになるのです。
この、風変わりな恋愛。
ここに、この作品の最大の特徴があるのでしょう。

それからもう1つ。
たとえばDavid の行動、
それは観客には予想が付かないのですが、
それもそのはず、
David 自身にも予想がついていないのです。
ドラマを見ていて、こういう感覚をはっきり味わうのは、珍しいです。
詐欺師ものなどでは、
登場人物たちはそれなりの企画を抱いているわけですが、
それは観客には知らされていないので、
最後に驚かされる、ということが起きるわけです。
ただあくまでもこれは、
その企画が観客に伏せられている、ということであって、
登場人物自身が知らないというのとは、
まったく状況が違うわけです。
もちろん恋愛ものなどでは、
人物たちが迷いながら行動するのはいくらでもあることです。
ただ、それともちょっと違う。
自分が分からない、という点では、
『ボイス』(2,3)に登場する刑事と、
少しだけ似ているかもしれません。

もちろん、欠点がないわけではありません。
たとえば、イスラム過激派の描き方などは、
まったくのステレオタイプだし。
David は誠実で好感が持てるけれど、
ややマッチョなのは否めないし。
ただ、それを補ってお釣りの来るデキだったと、
わたしは感じました。