2023年3月26日日曜日

『ナイト・エージェント』

もうずいぶん昔ですが、
このジャンルも知っておきたい!
との一心で、
推理小説ばかり読んでいた数年がありました。
で、
その結果好きになったのは、
まずはレジナルド・ヒル。
彼の小説は、(別名義のものも含めて)ぜんぶ読みました。
今思い出しても、
いい小説だと思えるものがいくつもあります。
(『死に際のセリフ』とか『子どもの悪戯』とか。)
そしてローレンス・ブロック。
(もちろんマット・スカダー・シリーズ)
で、マイクル・コナリー。
(もちろんハリー・ボッシュ・シリーズ)
3人とも超人気作家ですが、
やっぱりそれだけのことはあります。

で……

この中のマイクル・コナリーが絶賛したという小説、

『ナイト・エージェント』


がドラマ化されていました。
ネトフリで配信されたので見てみると……


これ、素晴らしいです。
すごくおもしろい推理小説を読んでいる時の興奮があります。
そうした「興奮」に興味があれば、
かなりオススメです。

<以下、完全にネタバレします!!>

で、このきわめてよくできたサスペンス・ドラマには、
それだけではない、
単純ではあるけれど新しい1つのパラダイムのようなものを
見いだすこともできます。
それは「父親」を通して描かれています。

ドラマの中では、
二人の父親が対比的に描かれます。
まず、FBIに勤務する主人公ピーターと、
やはりかつてFBIにいて、
組織を裏切ったとされる父親です。
(ピーターは、父親の無実を信じています。)
そして、大学生の娘マディとその父親。
この父親は副大統領ですが、
一方では、まだ幼かったマディに、
彼女の妹の溺死の責任を押しつけたり、
狂信的にテロリストを排除したがったりする人間です。
で、
この二人の父親は、結局、ダメなヤツだったのです。
特にピーターの父親は、
息子の期待とは違う存在でした。
(その後の名誉回復のチャンスは、暗殺されて失いました。)
つまりこの物語には、
アメリカ映画でお馴染みの「偉大なる父親」は存在せず、
汚れた2人の父親が提示されているのです。
また、
事の発端となり、ピーターと仲良くなるローズは、
叔父叔母に可愛がられ、そこに両親の影はありません。
さらに、
唯一「よき父親」である
(ただし離婚しており、実際にはほとんど娘と会ってないのですが)
シークレット・サービスの男性
(Lucifer のお兄さん!)
は、銃撃戦の最中に撃たれ、命を落とします。
「よき父親」は生きられないのです。
で最後に、
大統領が女性であることも、意味があるのでしょう。
現実のアメリカにはまだ、女性大統領が生まれてはいません。
アメリカの「父親」との言うべき大統領もまた、
このドラマ内では女性なのです。
これらは、偶然とは思えません。
新しい社会の形を提示しているのでしょう。

ラストも、
女性大統領の命を受けたピーターが、
新たな任務に旅立つところで終わります。
よく考えられた、いい作品だと思います。