タハール・ラヒム見たさで見始めたのは、
『ニューヨーク 親切なロシア料理店』(2020)
です。
結論から言えば、
わたしはいい映画だと感じました。
(評論家たちの意見は、概して厳しいようですが。)
舞台は現代のNY。
そこには古くからあるロシア料理店があり、
そこが中心的なトポスです。
縦糸は、大きく言って3本。
まずは、バッファローから、
小さな子ども二人とともにNYに逃げ出してきた女性クララ。
彼女の夫は、子どもたちに暴力を振るい、
その暴力から二人を救い出すため、
彼女は夜明け前に家を抜け出したのです。
けれども、お金もカードも泊まるところもない3人は、
大都会ですぐに窮地に……。
そして、NYで看護師として働くアリス。
彼女は同時に、教会で、「癒やしの会」を運営し、
悩みを抱えた人たちに手を差し伸べています。
また、ボランティアで炊き出しにも参加しています。
最後がマーク(タハール・ラヒム)。
レストランを経営していた彼は、
弟のやっていた麻薬ディーリングの共犯とされてしまい、
実質無実の罪で収監され、出所したばかり。
そしてささやかな出所祝いをしたのが、
あのロシア料理店で、
経営陣を意気投合した彼は、
そのままその店で働くことになります……
この3本の糸が、
次第に近づき、
やわらかく結びついてゆきます。
いわゆる「ヒューマン」な映画は、
ちょっと……ですが、
この映画の場合、
その「ヒューマン」加減が絶妙で、
過剰ではなく、
また背後の「現実」からも目を背けはしないのです。
監督のロネ・シェルフィグは、
デンマーク人女性で、
いわゆる「ドグマ95」に参加していた人です。
マークの描き方に、
女性監督たちによく見られる感触(「理想」化された男性像)がありましたが、
タハール・ラヒムが演じると、
それはとてもいい感じです。
(ふつうに現実的、とは言えませんが、
そういうこともあるかな、という感じ。)
料理店のオーナーをビル・ナイが演じ、いい感じ。
また、本筋とはあまり絡まないところで、
ケイレブ・ランドリー=ジョーンズが、
ダメダメで心優しい男を演じており、これも好感が持てました。
ちなみにこの映画、英語タイトルは当初、
Secrets from the Russian Tea Room
だったのが、その後
The Kindness of Strangers
に変更になったようです。
そしてフランス語版では、
Un hiver à New York
これはこれでいいですね。