2020年1月18日土曜日

Frères ennemis

レダ・カテブとマティアス・スーナールツ主演の映画、

Frères ennemis    (2018)

を見てみました。
よかったです。

https://www.youtube.com/watch?v=iQQ75Pa5mNI

まず、舞台の中心となるのは、ここ。


背後に、特徴あるTDF の姿が見えています。
で、TDF 周辺の Leader Price をグーグル・マップで探してみると、
ありました。
リラとロマンヴィルの境界あたりのシテです。
(このあたりは以前、
Cheba Louisa という映画のフィールドワークで歩きました。)
このシテで、
主人公たちは兄弟のように育ち、
やがて、ドリス(レダ・カテブ)は麻薬取締官となり、
マニュはディーラーとなりました。
その二人が「対決する」という宣伝文句でしたが、
実際にはもっと複雑で、
勝ち負けを決めるような単純なものではありませんでした。

イムラーヌは、マニュの相棒でしたが、
同時にドリスに情報を提供するスパイでもありました。
そして、ある日麻薬を運搬中に、
イムラーヌが撃たれて死にます。
マニュは命からがら逃げ出したものの、
この犯行の首謀者だと周りから思われ、行き場をなくしてしまいます。
そこに現れたドリスは、
警察に協力すれば助けてやると申し出ます……

先日見た潜水艦の映画の中で、
レダ・カテブは優秀な艦長でした。
そこでは、彼がアラブ系であるかどうかはまったく問題にならず、
それをあえて指摘することは、
過剰なラベリングにさえ感じられるほどでした。
でも、今回は違います。
まず映画冒頭、
別の事件でとあるアジトに踏み込んだドリスたちが、
現行犯でディーラーたちを逮捕するシークエンス。
捕まったアラブ系の犯人の一人は、
ドリスに向かって、
アラビア語で声高に叫ぶのです。
そのときドリスはフランス語で、
「おれはアラビア語なんかわからないよ、バカ野郎」
と返すのです。
そうか、そういう世代のアラブ系なのだな、
と思うのですが、
映画の後半、
ある時、苦しい思いを抱えたドリスは、
どうやらかなり疎遠になっている実家を訪れます。
父親は冷たく、何しに来た、と突き放し、
ドリスは「会いたかったんだ」と返すのですが、
このシークエンスでの会話はすべて、
アラビア語で行われるのです。
ドリスは、アラビア語がちゃんとできるのです。
そして考えてみれば、
この映画の大きな主題の1つは、
自分の出身コミュニティーから出て、
なおかつ、
それと対峙する仕事を選んだドリスの、
深い葛藤なのでした。
シテ出身であることを生かして麻薬捜査部に入り、
かつての仲間を「情報源」となることを強い、
それがためにその「情報源」が殺され、
なおコミュニティーで生きる父親とは断絶状態。
でもドリスは、
友人も父親も愛している……

フィルム・ノワールが、
(加藤幹朗氏が言うように)
「映画が始まった時にはすでに失われているもの」
を巡る物語であるとすれば、
ここではそれは、
ドリスの古いアイデンティティーだということになるのでしょう。

監督は、以前この映画を撮った人です。

http://tomo-524.blogspot.com/2016/08/loin-des-hommes.html

こちらもやはり、レダ・カテブでした。