2020年2月5日水曜日

『ありふれた悪事』

韓国映画小特集の続きです。
つらつら物色していたら、
「舞台が1987年」
という説明が目に飛び込んできたこの映画、

『ありふれた悪事』 (2017)

を見てみました。

https://www.youtube.com/watch?v=m42RCKVOxqg

もしかして、「1987」が、
違った視点から見られるかな、
と思ったわけですが、
まさにそうでした。
これは、『1987』とセットにして見るといいですね。

主人公は刑事ソンジン。
暮らし向きはかなり苦しいようで、
聴覚障害のある妻は袋張りの内職をしています。
小学生の一人息子は、足が不自由です。
ソンジンには、新聞記者の友人、ジェジンがいます。
ジェジンは独裁政権にきわめて批判的ですが、
そういう記事は書かせてもらえない状況が続いています。
そんな中、連続殺人事件が起きるのですが、
権力の側は、おそらくは発達障害である一人の男性を、
その犯人にでっちあげ、
自分たちの能力を示すことを望みます。
そこで声がかかったのがソンジン。
言うことを訊くなら、
金もやろう、クルマもやろう、
子どもの足も、最高の病院で手術を受けさせてやろう、
と持ち掛けられます。
大きな両親の呵責を感じながらも、
人の親として、夫として、
ソンジンはこの申し出を断れません……

87年以前の韓国の、
拷問がまかり通るような社会が描かれますが、
その社会とはまた、
「普通の人々(←原題)」が、
「普通」に生きられることを求めている社会でもあります。
そして貧困。
ソンジンはヴェトナム帰りであり、
彼の暮らしはとても厳しいものです。
刑事という職を持っていてこれですから、
今の韓国とは比較にならない状況です。

なかなか苦い映画で、
それはつまりいい映画であることです。
白黒はっきりさせる、という、
能天気な(ハリウッド的)勧善懲悪ではなく、
その中間にあって、
どうあがいても苦くしかならない選択を引き受けた人たちの物語です。

この10日間で7本の韓国映画を見ましたが、
1本(『スノーピアサー』)を除いて、
みんな見どころがありました。
韓国映画は日本映画を越えている、
という指摘はよく耳にしますが、
ここまでのところ、なるほどと思わせる見応えです。