2021年9月4日土曜日

『日本で一番悪い奴ら』

白石和彌監督の、『凶悪』に続く作品、

『日本で一番悪い奴ら』(2016)

を(ネトフリで)見てみました。


この映画は、
20年前、北海道警察で実際にあった「稲葉事件」、
に基づいたフィクションとのことで、
タイトルによって指さされているのは、
映画には現れない道警の上層部、ということなのでしょう。

本人によれば、「柔道と喧嘩しか能がない」諸星は、
その柔道を買われ、道警に就職することができました。
その後、ピエール瀧演じる先輩の忠告に従い、
「点数」を稼ぐことに専心します。
(たとえば、殺人犯を逮捕すれば18点です。)
そののめり込み方は尋常ではなく、
しかし、これが当初は功を奏し、
諸星はあっという間にすすき野の「顔」になってゆきます。
暴力団内に多くの「S(スパイ)」を抱え、
彼らの情報により次々と「ホシ」を挙げてゆくのです。
道警の方も、そんな彼を利用し、
違法捜査を押しつけることで、
自分たちの実績を上げることに夢中になります。
ただ、この諸星と道警の「蜜月」も、
長くは続きませんでした。
諸星が信用していたSが、彼を裏切り……

悲しいのは、
道警から与えられた数々の賞状を、
諸星が部屋に飾っていることです。
彼は、自分が、
大きな権力構造の中のコマであることに気づくどころか、
「エース」というアイデンティティーに有頂天になり、
いわば「自発的隷従」を強化していくのです。

映画は、ラストに「メッセージ」を置くことで、
ある種の倫理性を担保しようとし、
それはある程度納得いくものではあるのですが、
映画としての醍醐味は、
諸星がのめり込んでゆくそのドライブ感であり、
ちょうどその裏面に当たる、
諸星の哀れさなのでしょう。

飽きる部分は一切なく、
最後まで一気に連れて行かれました。
もっと見てみます。