さ、ではここで問題です。以下のフランス語を、訳してみてください
Mon oreille est un coquillage
Qui aime le bruit de la mer.
ああ、ご存知でしたか? そう、Jean Cocteau の Oreille「耳」です。ちょっと直訳してみましょう。
わたしの耳は貝殻です
海のざわめきを好みます。
これだとまだ、「好む」の主語があいまいですか? じゃあもっと直訳。
わたしの耳は、海の
ざわめきが好きな貝殻です。
ですね。では、お待たせしました、ご存知堀口大学訳です。
わたしの耳は貝のから
海の響をなつかしむ
ナイス七五調! うまくおさめたものです。ただ今の時代、こういう訳が許容されるのかどうか……はビミョーです。上田敏の『海潮音』しかり、小林秀雄の『地獄の季節』しかり。なんなら、与謝野晶子訳の『源氏物語』も、ここに加えてもいいかもしれません。
翻訳書がないなんていう状況は、辛くて想像するのもイヤですが、ほんと、大変ですよねえ、、翻訳って。ケチつけるのは簡単なんだけど、自分でするのはほんとに大変だと思います。
……なんでこんな話になったかというと、堀口の詩集を読んでいたからです! ではついでに、堀口自身の詩の一節を。実は堀口は、4歳のときに母親を亡くしています。(彼女はまだ、24歳でした。)
母よ、
僕は尋ねる、
耳の奥に眠るあなたの声を、
あなたが世に在られた最後の日、
幼い僕を呼ばれたであろうその最後の声を。
三半器管よ、
耳の奥に住む巻貝よ、
母のいまはの、その声を返せ。 (「母の声」)
泣けます。