2021年8月11日水曜日

『しとやかな獣』

ネトフリ内をぶらぶらしていると、
あと2週間ほどで配信終了、となっている映画があり、
見ると奇しくも「1962年」、
つまり一昨日見た『5時から7時までのクレオ』と同じ制作年です。
で、見てみました。

『しとやかな獣』


(←全編版ですが、画質は……)

これはほとんど密室劇で、
団地5階の2DKから出ることはほとんどありません。
ただし、窓から遠い街並みや空は見えるし、
玄関の外側の廊下、
あるいはその廊下から続く階段なども頻繁に現れるため、
「密室劇」にありがちな閉塞感は、
かなり和らいでいます。
もちろん閉塞感があるのは間違いないんですが。

前田家は4人家族。
父親の徳三はもと海軍中佐で、50歳を目前にしてなお、
なにか一発当ててやろうと企んでいます。
ただ実際にやることといえば、
息子や娘をそそのかし、
詐欺や横領を働かせたり、
妾になってパトロンから搾り取らせたりします。
つまり、意地汚くちっぽけなオヤジです。
妻も妻で、
そうした夫や子供たちの生活ぶりについて、
応援こそすれ道徳的な態度はみじんも見せません。
そしてこの状況の中に、
息子の上司である男や、
息子が貢がされていた女性や、
娘の愛人である作家などが押しかけ、
彼らが持ち込む「苦情」が、
物語の進展をドライヴすることになります。

これ、なんとおもしろいです。
スピード感もあり、
セリフのスピーチレベルも多層的で、
敗戦後17年という、
近くも遠くもない距離感も伝わり、
風俗的でありながら普遍的な要素も色濃いという、
かなりよくできた作品だと思います。
カメラワークも変則的で、
それを生かすために、
セットもかなり風変わりなものに見えます。
つまり、実験的でもあるのでしょう。

監督は川島雄三、
といえばこれです。


こちらもおもしろかったです。