2022年1月9日日曜日

『スプリング・フィーバー』

数日前に見た『薬の神じゃない』で、
白血病の幼い娘を一人で育てるダンサーを演じていた、タン・ジュオ。
強さも、
身を捨てる感じも、
慈しむ面もあり、
なかなかよかったので、
(ま、役そのものの良さもあるんですが)
彼女のデビュー作、

『スプリング・フィーバー』(2010)

を見てみました。


この映画、
実は随分前からアマプラの「マイリスト」に入れていた作品です。
というのも、ロウ・イエ監督が、
『パリ、ただよう花』


と同時期に作った作品なので、
ちょっと気になっていたのでした。
いい機会なので、今日はこれを。

舞台は南京。
人間関係は、少しだけ複雑。
中心にいるのは、ジャン・チョンというハンサムなワカモノです。
旅行会社で働く彼は同性愛者で、
恋人はワン・ピン。
ただこのワン・ピンには、教員の妻がいて、
彼女にとって彼は「理想的な夫」なのでした。
でも、やはり、彼女は夫の「浮気」に感づき、
定職のないワカモノ、ルオに調査を依頼します。
そして結果は……です。
妻はショックを受け、激怒し、
一方ルオはといえば、
恋人リー・ジン(タン・ジュオ)がいるのに、
ジャン・チョンと深い仲になってゆきます。
(ルオはバイなのです。)
とはいえリー・ジンもまた、
別の若い男性とベッドをともにしているばかりか、
勤め先の工場長とも、
単なる仕事上の付き合いではないようなのです……

というわけで、
複数の相手と付き合う人間が多いので、
なんというか、2つの「手」を持つ原子がくっつくみたいに、
関係は滑るように伸びてゆくのです。
で、
これは誰でも抱く印象でしょうけれど、
これらの人物たちはみな、
さまよっているように見えます。
この「彷徨」が、ロウ・イエのテーマであるのは明白でしょう。
南京という地方都市が、
この「彷徨」に現実感を与えています。
なので映画を見ていると、
こちらも滑るように、
彼らの彷徨と同調していきます。
それが、ここで用意されている映画的体験なのでしょう。

というわけで、
なかなかいい作品だと思いました。
むしろ、『パリ、ただよう花』よりも。